この記事は、仙台経済界 2014 年 5-6 月号に掲載された原稿をホームページ用に再編集したものです。
「高齢者も若者も、障害のある者も無い者も、誰しもが安心して暮らせるまち蔵王」を目指し、蔵王町遠刈田小妻坂地区に建設される特別養護老人ホーム「せせらぎのさと蔵王」が4月14日に完成、竣工式が行われた。事業主体は蔵王山水苑を運営するNコーポレーションなどが主体となって設立された社会福祉法人芽吹(富田正夫理事長)。この特養を第一の矢として、セーフティネットの確立、入居者の役割と尊厳の保証、新たなコミュニティの創造を核とする「蔵王福祉の森構想」が現実的に動き出した。蔵王福祉の森構想は、「高齢者も障害者も安心して住み続けることができる豊かなまちづくり」を理念に、「少子高齢社会に対応した新たな生活産業の創出」が、大きなテーマ。人口減少、高齢化が急激に進む蔵王町で、高齢者・障害者福祉と雇用・産業を結び付けた、新たな地域のイノベーション。完成した芽吹の特養ホームせせらぎのさと蔵王は、その中核施設だ。蔵王福祉の森構想は、蔵王町役場と遠刈田温泉のほぼ中間に当たる県道12号線沿いの82万5000平方メートルの広大な森林用地が対象。13年度から約10年をかけて、理念を実現するためのハード、ソフト事業が次々と計画、地域包括ケアを確立させる。特徴の一つが、地域ボランティアのはなみずきの会( 武田元会長) の活動。特養施設の入居者のサポートばかりでなく入居者と一緒に野菜栽培や地場産品販売を行うなど地域住民との交流の役目も果たす。今後は、訪問診療・看護、訪問介護、総合相談センター、子育て支援ネットワークなどのソフト系支援システムのほか、温泉療法など蔵王リゾートに相応しい新しい医療施設、サービス付き高齢者住宅、介護職員などのための保育所、地域コミュニティ広場、障害者のためのグループホームなどのハード面での整備も進める。
富田正夫 社会福祉法人芽吹理事長
人の生きる力の源となるのは必要とされることであり、誰かの役立つこと事と思う。たとえお歳を召してもその人ならではの賜物をいかんなく発揮して、活き活きとして暮らし、お役に立つことが生き抜く力となる。平成23年に企画を立て、24年に蔵王町の特別養護老人ホーム整備事業に応募して採択された。実現までには様々な困難に直面し、何度も天を仰いだこともあったが、多くの先輩たちに助けられ、まさかの坂を乗り越えてきた。浅学非才の身だが私たちにはもう一つの夢がある。まちづくりの土台は居住人口が増えることだと考えてる。そのためには働く場所が必要だ。高齢者施設という枠に止まらず、高齢者と農業を結び付け、これを産業までに高めたい。子どもを産んでくれる若い女性が蔵王町に住み、また戻り、新しく入ってくる女性の職場も増やしたい。せせらぎのさと蔵王を第一の矢に、今後第二、第三の矢を考えて、蔵王町のまちづくりに貢献したい。夢の実現に向けて皆様のさらなるご支援をお願いしたい。
清水信行 Nコーポレーション社長
蔵王山水苑は全体800区画で、現在150棟以上に居住されている。今後はさらに拡大していきたい。この地域は、無医地区として不安の声があり高齢化も進んでいる。こうした中で、リラの会、丸山(株)の協力でせせらぎのさと蔵王が完成した 蔵王福祉の森構想の中核施設で、今後はクリニックも併設、サービス付き高齢者住宅や24時間見守りサービスなど、若者から高齢者、障害者も安心して暮らせるまちづくりを進めていきたい。
村上英人 蔵王町長
蔵王町は農業と観光の町。この山地水明の地に素晴らしい施設が完成したことに感謝したい。30床でスタートするが、町外からの方々には蔵王の四季を見てもらい、ご家族は遠刈田温泉に泊まり、どんどん施設を訪れてほしい。町もしっかりと支援するすることを約束する。ともに力を合わせ構想実現に向かいたい。
武田元 はなみずきの会会長
蔵王福祉の森構想は、どんなに障害をもつ人でも、そうでない人でも、高齢者も若者も、すべての人が人間らしい生活を送ることができることを目指している。考え方の中核に人間の存在を保障することを据えている。理想は誰でも言えるが、いかに現実化するかが難しい。福祉の常識は非常識と言われる中で、はらから福祉会の障害者施設の蔵王すずしろは年商1億円を売り上げている。障害者だから賃金は安くてよいという常識的な考えへの挑戦から始まった。こうした考えに切り込んでいく勇気が必要だ。この常識に挑戦し、信念を曲げずに前に進めば、必ず素晴らしい構想が実現する。
入居者一人一人を重んじたケアを標榜する「せせらぎのさと蔵王」を現実的に実現するのが、毎日入居者と接しながら支えるスタッフたち。スタートに当たって、それぞれの思いを聞いた。
八島幸子さんは、施設次長として、事務、ケアマネージャー(以下ケアマネ)、生活相談員、管理栄養士、主任をまとめるほかに機能訓練も担当する。多くの老健施設で経験、新施設の立ち上げにも携わった。「高齢者に関わる仕事が自分には合っています。天職です」と言い切る。「スターティングメンバーになれたことはとても幸せ。施設の基礎を固め若い人に引き継ぎたい」。蔵王山水苑内に居住して6年。准看護婦資格も持つベテランだ。
生活相談員の油井普美さんは、入居相談から始まって、家族との相談、連絡、入居者の生活全般の課題を解決する。前職のではケアマネとしての経験を持つが、もっと身近に高齢者福祉に関わり合いたい」と、この施設を選んだ。「ここでは、ご入居者様が趣味などやりたいことを諦めないで実現してほしい」と語る。ケアマネの松崎道代さんは、仙台市内で在宅ケアマネとして5年間活躍した。高齢者などの権利擁護や地域で安心して暮らせるための勉強を続けていたとき、蔵王福祉の森構想に出会った。茨城大学人文学部から福祉を勉強するために東北福祉大学に進学した。「スタッフとともに、よいケアができるよう自分も成長したい」。社会福祉士の資格を持つ。野地純歌さんは、栄養士の仕事に携わる。「ご入居者様一人一人の体調を把握し、食べたいものをできるだけ叶えたい」と語る。仙台白百合女子大学健康栄養学科で学んだ。主任の有本健二さんは、介護福祉士として9年間介護職に携った。「理念通りの介護を行う」が目標。「介護スタッフを育て上げ、自分がいなくても機能していけるようにすること」を、自分の課題として掲げる。看護師の本名ゆう子さんは、東日本大震災で被災、仙台市宮城野区の自宅や、当時の職場だった多賀城市の特養施設も津波で被災したため、震災後、蔵王町に居住した。「施設長の考えに共鳴しました。構想の理念に近づけたい」。佐藤令子さんは、仙台市内の総合病院で30数年の大ベテラン看護師。「経験を活かして理念に近づけたい」。施設1階のフロアリーダーの日下渉さんは、「職員が楽しく幸せでないと良い介護はできない」という信念を持つ。そのため「働きやすい職場づくりを目指したい」という。日本福祉大学を卒業、ケアマネ、社会福祉主事、介護福祉士の資格を持つベテラン。従来型特養で介護に従事していたが、「ユニットケアに携わりたい」と転職した。「福祉はやればやるほど奥が深い。スタッフと理念を共有してよい施設づくりに貢献したい」。 ユニットリーダーの山田明弘さんは、構想自体に驚いた。「初めて聞いたときはびっくりしました。家族であるご入居者様の自己実現に努力したい」と語る。モットーは「一日一笑」。そして「山田のユニットがよいと言われたい」。事務の鈴木麻弥さんは、蔵王町小妻坂地区生まれ。将来は介護の資格を取得して、活躍することを考えている。
ここからは、食事・入浴介護など入居者の生活全般を支援する介護職員を紹介する。尾形幸恵さんは、地元蔵王町出身。23年間、特養で介護職にあった大ベテラン。「明日はどんな一日が来るのか、ワクワクしてもらえる介護をしたい」。渡辺理恵さんは、蔵王山水苑に居住して7年。構想を聞いてから、ここで働くため特養で経験を積んだ。「理念とシステムは、以前の職場からはとても考えられないほど素晴らしい。ここではご入居者様との時間を大切にしたい」と意気込む。盛岡市で洋服やアクセサリーなどのショップを30年間経営してきた加川映子さんは、実母の介護で意識の高い介護ヘルパーと出会った。「母は人間として誇りをもって亡くなることができました」。蔵王町出身のご主人の定年と同時に同町居住を決めたが、理念に共鳴して介護職としてスタートする。「どのような人に出会えるかがとても楽しみです」。小室早紀さんは、「入居者様に寄り添った介護をしたい」と、前の福祉施設から転職した。はなみずきの会との交流も楽しみにしている。水上恵子さんは、東京でバスガイドだったという異色の経験を持つ。結婚を機に白石市に移り、介護や看護助手を経験した。「ユニットに携わりたい」と転職、「明るく笑顔で自宅同様に過ごせる環境づくりを」と語る。佐藤千晶さんは、福島学院大学短期大学部からの新卒採用。「自然の中でケアができることが魅力です」と期待する。赤坂三智子さんは、東日本大震災の津波で仙台市宮城野区蒲生の自宅が災害危険地域となったため、蔵王山水苑に居住した。リラの郷での介護職としての経験を活かす。「入居者様と一緒に笑いあえる施設にしたい」。蔵王町居住の山家一恵さんは、介護に興味がありホームヘルパー資格を取得したときに施設の話しを聞いた。「ご入居者様が社会復帰できるよう一生懸命頑張りたい」と語る。崇高な理念を実現しようとするこのスタッフたちの意識と行動が、蔵王福祉の森構想をさらに深化させていく。
大津直人 はなみずきの会幹事
はなみずきの会の幹事としてスタッフのとりまとめなどを行う大津直人氏。蔵王山水苑を運営管理する㈱Nコーポレーションの管理課主任でもある。「せせらぎのさと蔵王は、蔵王福祉の森構想を実現する第一の矢となります。オープンを心待ちにしていました」。800区画という蔵王町最大の別荘地蔵王山水苑は、現在550戸、150人が定住する。今年で分譲を開始して40年。東日本大震災の影響がほとんど無かったため改めてその安全性が注目され、震災後は居住者が増え続けている。名湯遠刈田と同質の源泉温泉と高いセキュリティ、品質の高い管理が特徴。「地域社会と調和して、持続可能な発展のために貢献する、という同社の理念と蔵王福祉の森構想は完全に合致します。自分らしい生きがいを見つけてもらい、その実現をサポートしたい」という。隣町の川崎町出身。「蔵王福祉の森構想に沿った運営は、川崎町始め近隣自治体の福祉行政に影響します。構想実現に全力を尽くしたい」と語る。
和田淳美 はなみずきの会会員
蔵王山水苑内の医療法人社団リラの会が運営するグループホーム「リラの風」の管理者の和田淳美さんは、はなみずきの会会員でもある。「蔵王福祉の森構想の理念を聞いたときは、難しいことをよく言ってくれたと思いました。多くの経験豊かな福祉実務者が関わっているので課題は十分分かりきっています。それを乗り越えていかに理想に近づけるか、発起人の情熱しかありません」と、大きな期待をかけている。グループホームの運営推進 会議で地元蔵王町の住民から、「将来一人で住むのはとても不安。受け皿がほしい」と、いつも訴えられてきた。蔵王町の高齢者は約4000人。遠刈田地区の福祉施設が少なく、地元からも注目されているという。「思いはあっても具体化するのは難しい。誰が何をやれるのか、自らが組み立てて、実行することが大切だと思います」。
原稿元:下部私意外者仙台経済界 仙台経済界2014年 5―6月号 http://www.senkey.co.jp/