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このインタビューは、仙台経済界2013年3-4月号に掲載された原稿をホームページ用に再編集したものです。

人と自然を活かして「蔵王町に永住する」ための9人の提言

蔵王国定公園の国有地が町の3分の1を占める蔵王町は、仙台から車で約40 分というアクセス性抜群の町。しかし近年、遠刈田温泉やエコーラインを始めとした観光客の伸びが止まり、居住人口も減少気味。とはいえ、県内トップの農業生産高を支える畜産、果実、米は依然、好調だ。環境、地場産品、食材とも県内有数の蔵王町の新しいまちづくりを行おうという、住民サイドに立った提案が盛り上がりをみせている。

出席者 ※順不同

  • 富田 正夫 氏

    医療法人社団
    リラの会常務理事事務長

  • 相澤 国弘 氏

    (株)Nコーポレーション
    開発事業本部蔵王事務所長

  • 佐藤 永一 氏

    丸山(株)経営推進事業本部
    取締役経営推進本部長

  • 村山 吉浩 氏

    七十七銀行蔵王支店長

  • 佐々木 文彦 氏

    有限会社アトリエデリス社長

  • 我妻 研司 氏

    (株)ジエー・シー・アイ
    営業本部設計・開発課長

  • 横田 清 氏

    岩手大学名誉教授
    農学博士

  • 平沢 一則 氏

    産直市場四季菜果役員
    平沢地区副区長

  • 平磯 文朗 氏

    (株)小西造型社長
    兼事業統括本部長

蔵王町の「隠れた宝探し」からスタート

司会 蔵王町農林観光課の話によると、蔵王町の人口のピークは約1万7000人、しかし今は約1万3000人と減少しています。国の作成した観光交流人口による経済レポートによると、定住者一人が減ると、日帰り国内旅行者で約80人増やさないといけません。やはり、定住者を増やし、企業誘致もはかり、町の活性化をはかることが大きな課題として横たわっています。課題は整理されていますので、今は、計画をいかに具体化して行動していくかという段階に来ています。

富田氏 どこの町でも、少子高齢化で定住人口の減少による課題に直面しています。しかし蔵王町は、農産物も梨や桃、リンゴ、米、畜産などの1次産品の生産額は県内トップ、しかも温泉や蔵王、スキー場など観光面では他の自治体に比べても素晴らしい素材をたくさん持っています。まず蔵王町の宝物を探しだして、人と人とを繋いで、観光交流人口はもちろん、居住人口を増やしていくことです。そのために、様々な具体的計画を提案していきたいと考えています。

相澤氏 蔵王山水苑という大型の別荘地を経営して40年になりますが、4分の1の方がそのまま蔵王町に居住されています。アンケートを取りますと、医療施設がないことが不安だという意見が多く、その施設づくりが今後の定住化の大きなポイントだと思っています。もちろん様々な生活利便施設も必要です。

村山氏 過疎化が進むどこの自治体でも、地元と外の人を繋ぐ潤滑油のような人が少ない。様々な情報を持っている外の人、そして若者と夢中になる『馬鹿者』がまちづくりには必要だと思っています。川上と川下を繋ぐような仕組みを作っていくことではないでしょうか。

佐々木氏 蔵王の食材を使った店「アトリエデリス」を町内に8年前にオープンしました。蔵王の食材と人のファンづくりをして、この蔵王町を幸せな場所にしたいと思っています。仲間と「ざおう森の回廊」というグループを作り、蔵王山麓の食材を使い、そして農家を育てようという活動です。蔵王の農産物は多品種にわたり丁寧に作られていますが、高齢化とともに農家の後継者が年々少なくなっています。食材がなければ、私どもは陸に上がった河童と同じなのです。

蔵王町小妻坂地区に計画、新しい福祉・医療施設で雇用も創出。

司会 富田さん、さきほど具体的に計画をお持ちだということですが。

富田氏 実は、蔵王山水苑を運営しているNコーポレーションと私どもが中心となり、蔵王町役場と遠刈田温泉の中間地点である、県道12号線沿い、蔵王山水苑の近くせせらぎの里の小妻坂地区6600平方メートルに、高齢者が安心して暮らせるまちづくり「蔵王福祉エコタウン構想」を計画しています。

相澤氏 テーマは、高齢者が安心して住み続けることができる豊かなまちづくり、少子高齢社会に対応した新たな生活産業の創出、そして雇用の促進と経済活性化をはかり、地域の持続可能な発展をめざしています。

司会 具体的には。

富田氏 現在計画中の施設は、特別養護老人ホームと蔵王の自然治癒力を活かした健康増進施設です。2月23日に説明会を開催しました。

相澤氏 将来的には、元気高齢者向け住宅としてバリアフリータイプの別荘も整備、また軽度要介護・要支援の高齢者向け住宅してサービス付き高齢者向け住宅も整備します。さらに特別養護老人ホームなどの職員と地域住民も利用できる保育所の整備も計画しています。

富田氏 医療法人社団リラの会では、現在、短期入所生活介護、認知症高齢者グループホーム、介護老人保健施設などを蔵王山水苑内外で運営して、多数の職員を雇用していますが、今回の新しい施設である特別養護老人ホームと健康増進施設などの計画で、さらなる雇用が創出できると思っています。福祉・医療は、若者から中高年層のいろいろな世代が働ける産業なのです。

相澤氏 蔵王町内の素晴らしい環境のなかで、最後まで輝きを失わない人生を歩んでいただきたい、という発想から計画したものです。2013年8月には施設を着工して、14年4月にはオープンさせたいと思っています。

富田氏 この福祉施設のほか、居住者の生活利便施設として、福祉施設に隣接した形で、生鮮食料品や生活必需品、嗜好品などを揃え、さらに農業と観光の町蔵王を訪れる観光客向けの商業施設も計画として持っています。

平磯氏 富田さんがお話したように、町の活性化には、こうした各種施設の拡充も必要となりますが、もう一方が地元の人たちが地元に根付いている伝統や文化、技、それに色々な産品を探し出し、大切に見直しされるとよいと思います。蔵王町小妻坂地区に計画、新しい福祉・医療施設で雇用も創出。

新種リンゴ「蔵王はるか」

司会 蔵王と言えば、梨や桃などがありますが、最近、「蔵王はるか」というリンゴが開発されました。蔵王町の新しい宝の一つだと思います。横田さん、紹介して下さい。

横田氏 私は、蔵王山水苑に居住して10年、蔵王町民となって7年が経過しました。その間、私の専門分野を活かして、蔵王はるかというリンゴの新品種を作りました。現在、生産者の11人と町会議員との13人で「はるか会」という組織を作り、将来、どの場所で販売するかが大きな課題となっています。この蔵王町に、はるかの販売拠点があれば大変ありがたいと思っています。

平磯氏 はるかを食べてみました。品の良い香り、色艶、程よい食感とその味、三拍子揃った今までのリンゴには無いスパ抜けた魅力を感じます。

司会 横田さんは、このはるかを売り出したいのです。どのように考えるとよいのでしょうか。

平磯氏 エリア外から収入を増やすための「名物」を創り出すチャンスだと思います。そのためには競争を前提としたマネージメントが必要で、名物が名を成していくには、送り手側の都合だけでなく、使い手側の価値観やマーケット特性を理解することが大切ですね。この「はるか」が、メインはギフト用か自家消費なのか、品質と供給できる量などを整備していきたいですね。実際の品質と価格がかけ離れていると、お客様はがっかりして二度と買いません。少し上の程度の打ち出し方をすると、期待以上のサプライズに繋がります。お客様の立場から考えると良いのではないでしょうか。

我妻氏 私は蔵王町の生まれで、仙台の会社で、福祉施設機器の設計や製造、販売と福祉施設の運営プロデュースなどに携わっている視点から話しをさせて頂きます。せっかく蔵王町に新しい高齢者施設や住宅が計画されていますので、高齢者の口に入る食材としての販売チャンネルが必要だと思います。

横田氏 蔵王はるかを加工してジャムやジュースも作ります。ジャムにしても、そのまますり下ろしても、黄色い色がそのまま残ります。実は介護施設や病院で試食してもらいましたが、非常に人気でした。1000個ほしいと言われました。蔵王はるかをいくら煮ても潰れないのです。酸化に強く、甘みが強い。蔵王はるかは11月25日から年内までしか売れません。貯蔵庫に入れも2月一杯です。実はリンゴの花言葉は、「選ばれた恋、もっとも美しい人へ」なので、ホワイトディ向けに販売を計画しています。

村山氏 このジュースは一番美味しいと思いました。水を加えず、リンゴだけのジュースなのです。

平磯氏 蔵王はるかは、生まれながらに、「もっとも美しい貴女へ」というキャッチコピーを持っています。改めてデビューの仕方を大切にして、消費者のストライクゾーンにくれば、かなりのご支持をいただけるようになりますよ。

農業の6次産業化は1次産業が最も大切

司会 佐藤さんの丸山では、蔵王豚の生産もされていますね。

佐藤氏 会社では、家畜の飼料販売から始まって50年になります。畜産業もやりながら、豚を生産しています。昔は、普通に飼育して出荷していましたが、それでは競争力がないので、無菌豚を育てて、出荷するようになりました。生産規模は大きくなってきていますが、悩みは、どこで誰が食べているのかを、我々の生産者側が知らないことなのです。私が大学を終え家業に就いたとき、うちの肉はどこで買えるのかと思ったのです。親父に聞いたら、俺も知らないと。卸業者さんに聞くと、有名なホテルで、女性向けのリラクゼーションの一つの料理として出されたり、使われていることがようやく分かりました。我々が主体的に販売していないので、肉がうまいのか、まずいのか、分からないのです。それはお客様との接点がないからなのです。農業者の立場からすれば、その辺の活動が一番求められています。地域の蔵王の町民では知ってはいるが、実際は食べていない。まず地域の方が食べてもらうこと、知って貰うことが大事ではないでしょうか。そこから外の方に知ってもらうことだと思います。農業者が直接、客の声を聞くことが大事だと感じています。

佐々木氏 たっぷり蔵王キャンペーンで、蔵王豚を使用したカツサンドを作りました。そのとき、お客様から実は手に入らない、どこで買えるのか分からないと言われたのです。昔のようにどんどん作って売れた時代はよいのですが、今は、誰のために作って、誰がお客様なのか、そこを明確にすることが必要だと思います。たとえば、普段の食材は近くのスーパーでよいが、ギフトは専門店に行ってとか、蔵王の産品も、その方向に行かなくてはだめではないかと思います。

平磯氏 ギフトの世界は、高い安いが一番ではなく、どれだけこの商品でお客様を大事にしているかという気持ちが表れています。気遣いをどれだけしているかということが、頂いた方の満足と驚きに繋がるものだと思います。サプライズがイメージづくりの中では大切ですね。それが地域にとって、新たなブランド創りになり、宝ものになっていくと思います。

村山氏 6次産業化とよく言いますが、1次産業×2次産業×3次産業=6次産業ですが、例えば1次産業がゼロになれば産業全体がゼロになります。こけし工人は素晴らしいこけしを作りますが、商売人ではありません。農家も同じで、マネジメントなど、支援する必要があります。農業と加工会社と販売会社。この3つが一緒になっての6次産業化を推進することが大切なことだと思います。

佐藤氏 豚肉の価格は仙台市場で決まりますが、実は肉のうまさではなく、体重と脂肪の厚さとかだけで、ものの3秒で、中とか上とか決まっていきます。今は、豚肉1キロ当たり400円のコストがかかりますが、それがいまだと300円とか350円で取引されます。それでは売る度に損してしまう。養豚は、6割が餌代。価格が伸びなければ、養豚をする農家は無くなってしまいます。農家がなくなれば、飼料販売先もなくなるという負の循環に入ります。そのなかで、しっかりした良い豚を出して高く買ってもらうことが大事です。良い飼料を与え、ストレスをかけない方法で飼育すれば、実は出荷まで30日以上縮まったのです。通常180日が、150から160日で出荷できるようになり、1ヵ月分の餌代が浮き、美味しい豚をつくりながら経営が成り立つことになります。

軽井沢や那須高原のような景観にも配慮

司会 県道沿いにある産直市場の四季彩果の活性化が求められていますね。

平沢氏 商品がなかなか集まりません。メンバーが80人いますが、実際は20から30人しか農産物を出していないからです。活性化して売れるようにしたいと思います。まず地域の皆さんと一緒に様々なことをして、販売先を広げたいと思っています。

相澤氏 私は、四季彩果の活性化も含めてエリア連携が重要だと思います。一つのことをそのエリアで連携しながら販売したりすることが重要ではないでしょうか。それが、これからの蔵王町のまちづくりにとって最も大切なことだと思います。私どもが将来つくる商業施設が生きてくると思います。

平沢氏 蔵王山水苑に居住されている方々と交流をしながら、様々な取り組みをしていきたいと考えています。

相澤氏 蔵王山水苑の世帯数のうち関東圏が6割です。蔵王の地元のものを買って関東圏に戻ります。どこの食材がうまいかなどを鋭く見ています。そしてその意見が関東に広まります。交流を強化すれば必ず蔵王町は活性化すると思っています。軽井沢や那須高原のような、景観にも配慮したまちづくりに向けて努力していきます。

富田氏 蔵王の活性化のためには、まず地元の宝探しから始めて、そして人と人を繋ぐこと。そして蔵王で採れる産品はまず地元で食されてから外で食べてもらう努力をすることが分かりました。小妻坂地区の新しい蔵王福祉のまち構想を着実に具体化し、必ず町の活性化に繋げていきたいと思います。

司会 ありがとうございました。今後も、蔵王町のまちづくりのために、それぞれの立場で頑張って下さい。


原稿元:株式会社仙台経済界 仙台経済界2013年3-4月号 http://www.senkey.co.jp/

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